川井憲次の音楽といえば「めぞん一刻」「らんま1/2」などの古いTVアニメから、最近では「ひぐらしのなく頃に」「機動戦士ガンダム00」などのBGMまでを担当していることもあり、アニメファンなら誰もが耳にしたことがあるはずだ。
一方で川井は、アニメ・実写を問わず、押井守作品をはじめとした多数の映画音楽の作曲も手がけている。それらの川井憲次映画音楽の集大成ともいえる「川井憲次コンサート2007 Cinema Symphony」が、11月4日にパシフィコ横浜国立大ホールにて開催された。
開幕時間となって奏者達が入場してきたが、まず驚かされたのはステージ上の楽器の多彩さだ。「フルオーケストラコンサート」ということだから、バイオリンやコントラバス、ハープ、トランペットといった楽器が揃っているのは当然だし、コーラス隊がいるのも豪華だが、不思議ではない。だがステージ上にはピアノもあり、ティンパニーは10台もある。そのうえバンド用の楽器も用意され、ドラムはセットで3つ、キーボードも2台。おまけに和太鼓まで用意されているのだ。さすがに「客席の前10列分をつぶして、ステージにした」というだけのことはある、圧巻の光景だった。
コンサートは、まずは静かに始まった。曲は「Unnatural City II」、映画「機動警察パトレイバー2 the Movie」にて、戒厳令下に置かれた東京を描いたシーンで流れていた曲だ。戦争と日常が共存する空間を示した、日常的のようで非日常的である、美しく不思議な旋律である。
それが突然変わったのは2曲目からだ。そろいの和服に身を包んだ西田社中の面々がステージインし、民謡独特の高い声を張り上げる。さらに太鼓奏者の茂戸藤浩司が太鼓を乱打。2005年の愛知万博「めざめの方舟」の会場で流された「百禽 Hyakkin」の演奏である。とにかく民謡のこぶしが響き渡る声と、太鼓の轟くような音が響くのだ。
それが終わったあと、みずからも演奏に参加していた川井憲次が挨拶する。
「僕はコンサートをやるのは15年ぶりくらいになるので、慣れていないせいもあってすごく緊張しているんですが、いつもレコーディングに協力してくれているメンバーやすばらしいゲストに支えられて、きょうはやっていきたいと思います」
その後は、川井憲次の代表作で、本人もひじょうに思い入れがあるという「機動警察パトレイバー 劇場版」1作目と2作目のメインテーマが流された。ステージのスクリーンには、名作と名高い映画のオープニング映像も上映され、聴衆は誰もが血が熱くなるのを感じたことだろう。
そのあと、最初のボーカルのゲストとして舞台に上がったのは、明るく楽しい曲である「御先祖様万々歳!」を歌ってくれた児島由美だった。それから数曲を挟んだあと、もともとはギタリストをめざしていたという川井自身のギターによって、映画「ケルベロス 地獄の番犬」より「陽炎」が演奏される。映画の舞台となった台湾の光景が思い出される演奏だったが、そのあと「美しき野獣」「墨攻」「セブンソード」という、川井が担当した韓国や香港映画の音楽が登場し、ステージ上のスクリーンには、映画の映像も映し出される。改めて、川井憲次の世界の広さを(彼の音楽という意味でも、名前という意味でも)思い知らされた感じだ。
休憩を挟んで、第2部の最初を飾ったゲストは坂本美雨。彼女がみずからのアルバムから「風光る」と、映画「イノセンス」の挿入歌で作詞を担当した「River of Crystals」を歌った。その次は「イノセンス」より、「傀儡謡 怨恨みて散る〜陽炎は黄泉に待たむと」の演奏だ。映画のクライマックスシーンが背景に映し出される中、再び西田社中の民謡コーラスと茂戸藤浩司の太鼓が高らかに響いていた。
次のゲストは、今回のコンサートのためにはるばるポーランドから来日したエルジビエタ・トワルニッカ。映画「アヴァロン」で、実際にスクリーン上で歌っていた人物である。日本語で挨拶してくれた彼女は、映画と同様に「Voyage To AVALON(orchestra Ver.)」を歌い、さらにラジオドラマ「ケルベロス 鋼鉄の猟犬」のメインテーマである哀歌「Die Antwort」である。本当に映画のシーンを再現するような、すばらしいソプラノの歌声だった。
それから「『コンサートでこういう選曲はどうかな』とも思ったけど、今回は怖い曲をやってみたいと思います」という川井のMCのあと、映画「リング」と「DEATH NOTE」の曲も、映画の映像と共に演奏された。確かに意外な選曲かもしれないが、これもまた川井の音楽の世界の広さを感じさせてくれるものだ。
さらに、2人の奏者がティンパニー10台を使わなければ演奏できないという、「アヴァロン」のエンディングテーマ「Log In」が演奏された(通常ティンパニーは4台1組のものをひとりの奏者が扱う。しかも「手がたりないので」と、川井は「Log In」ではチューブラーベルを担当した)。それはまさしく、通常のオーケストラコンサートを超越したものと言っていいだろう。
瞬く間に閉幕時間が近づく中、「機動警察パトレイバー 劇場版」のエンディングを飾った「朝陽の中へ」でステージは一時幕を閉じる。そしてアンコールの曲は映画「紅い眼鏡」のエンディングと、再び「百禽 Hyakkin」だった。西田社中の人々は、今度は手拍子を取りながら歌うのだが、いつしか観客もともに手拍子を行なっていた。やがて曲が終わると手拍子は拍手へと変わり、いつまでも鳴りやまない。そしてひとり、ふたりと観客が立ち上がって、ついには観客席はスタンディングオベーションで埋め尽くされていた。
最後に川井は、以下のように語った。
「こんな大規模なコンサートが開けて、本当に僕は幸せです。おそらくもうこんなコンサートはできないんじゃないかなと思っています。僕はまた、あしたからふつうの業務に戻ります(笑)。また作品で皆さんにお会いできたらと思います、ありがとうございました」
こうして「一夜だけの宴」は幕を閉じたのだが、コンサートのもようはDVD化されての発売予定もあるとのことなので、この日会場に行くことができなかった人は、期待して待っていよう。

なお、当日演奏された曲目は以下のとおり。
1 Unnatural City II(2002 Version)(「機動警察パトレイバー2 the Movie」より)
2 百禽 Hyakkin(愛知万博 愛・地球博「めざめの方舟」より)
3 Theme of Patlabor2 (Kenji Kawai Version)(「機動警察パトレイバー2 the Movie」より)
4 ヘヴィ・アーマー (1999 Version)(「機動警察パトレイバー the Movie」より)
5 御先祖様万々歳!(「MAROKO 麿子」より)
6 天使のキス〜永遠の別れ(「ガラスの脳」より)
7 All the criminals(「美しき野獣」より)
8 陽炎(「ケルベロス 地獄の番犬」より)
9 A Battle of Witsメドレー 〜 Seven Swords -Victory-(「墨攻」「セブンソード」より)
10 謡III -Reincarnation-(「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」より)
11 風光る(坂本美雨アルバムより)
12 River of Crystals(「イノセンス」より)
13 傀儡謡 怨恨みて散る〜陽炎は黄泉に待たむと(「イノセンス」より)
14 Gray Lady(Ash)(「アヴァロン」より)
15 Voyage To AVALON(Orchestra ver.)(「アヴァロン」より)
16 Die Antwort(「ケルベロス 鋼鉄の猟犬」より)
17 不協分裂〜遺伝子(「リング」より)
18 the Last name(「DEATH NOTE the Last name」より)
19 Log in(「アヴァロン」より)
20 少女のテーマ(「紅い眼鏡」より)
21 朝陽の中へ(「機動警察パトレイバー the Movie」より)
アンコール
1 エンディング・タイトル(「紅い眼鏡」より)
2 百禽 Hyakkin (Short Version)(愛知万博 愛・地球博「めざめの方舟」より)
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